「学ぶことを恐れないカモメ」ジョナサン・リヴィングストンの物語。1970年に出版された有名な大ベストセラーである。理工学を志す者には飛ぶことの探究が科学技術の追究に重なって感じられるであろう。実は第4部が追加された完成版が2014年に出版されたのを知ったのはつい最近である。作者が最初、第4部を含めなかったこと、そして44年後に世に送り出したことについて思いを馳せるのも作品の一つの味わい方である。「人生には、食うことや、争うことや、権力を奪いあったりすることなどより、はるかに大事なことがあったんだ」―本書のメッセージは半学半教の精神と深く通じるところがある。コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース244号(2023年3月)

　私が紹介するのは、プレゼンに関するビジネス書である。本書の「プレゼンのゴールは聞いている相手を動かすこと」、「ビジネスの現場では相手を動かしてお金をいただくこと」に衝撃を受けた。自分自身がプレゼンの目的を「相手を動かすこと」と設定していなかったからであり、教えている学生の多くがビジネス界に進むからである。教員としてプレゼンへの姿勢を考え直すきっかけとなった一冊である。
　学生の皆さんにもプレゼン上達の参考になると思う。一読あれ！コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース243号(2022年12月)

　「DUNE」(Frank Herbert著、1965年初版)を私の薦める一冊としたい。中学生のとき、叔父から「デューン砂の惑星」(ハヤカワ文庫、矢野徹訳)を貰って、この作品に接した。現在、この旧訳の文庫本は手に入らないが、石森章太郎（当時）が魅力的な挿絵を描いている。本書では、首尾一貫した緻密な世界が構築され、主人公のPaulが成長して皇帝の座に就くまでが述べられている。読む度に新たな発見があり、飽きることがない作品である。その後、「DUNE」を英文で読み直すと、著者の構築した広大な世界を一層鮮明に体験することができた。砂の惑星の秘密が明かされる３編目までまとめて読むことを薦めたい。コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース242号(2022年10月)

　「ネコの住所録？」と気になり、少し読んで買いました。この本は、猫、犬やインコ、さらにハエまで出てくる39篇のエッセイです。動物や虫が身近な環境で子ども時代を過ごした私には心に響くものがあり、楽しかったことや悲しかったことが次々と思い出されました。この本が、文芸書を読むきっかけになり、群ようこさんの他の作品や、当時住んでいた地域が舞台になっていることが多い宮本輝さんの作品を立て続けに読むようになりました。今も猫が出てくる作品を読むことは多いです。最近は「みとりねこ」など、有川浩さんの作品を読んでいます。このコラムを読まれている皆様にも人生を豊かにする出会いがありますように。コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース241号(2022年9月)

　ハーバード・ビジネス・スクールのClayton M. Christensen教授が最後の講義として執筆された一冊。彼の専門分野である企業の経営理論を人生戦略にまで拡張し、どうすれば良い仕事ができるか？プライベートでも幸せな人生を送れるか？について色々なヒントを与えてくれます。仕事や人生を送る上でのモチベーションの質や理論的な考え方の重要性など、多くの共感を覚えると同時に、自分の人生にとって大切なものは何か、自分はどう生きるべきか、改めて色々と考えさせられた良本でした。ぜひ、これから将来のある学生の皆さんも，自身の人生・生き方を考える上で一読されてみては如何でしょうか？コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース240号(2022年7月)

　私は専任講師時代、CMUに97年から2年間留学し、金出先生から多くのことを学んだ。この本は「コンピュータビジョン」分野の父として80年代から研究を繰り広げてこられた金出先生が、研究の着想から実現に至るまで、どのようなスタンスで進めていけば良いか、ということを長年のご自身の経験を元にしながら、非常に明快に語っているものである。金出先生の薫陶を受けた多くの研究者にとっては肌身離さず持つべき「バイブル」となっている。これから研究を志す方にも、研究で生じる多くの迷いを払拭し、確固たる信念で研究を成就させるために役立つことは間違いなく、多くの人に読んで頂くことをお薦めしたい。コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース239号(2022年6月)

　最初はバッタと戦うヒーローものかと思った。企業に勤める友人から、「大学で研究続けるのも大変だね。」と言って勧めてもらった本である。自分は天然有機化合物を化学合成する研究を行っているが、バッタに関連した研究には携わっていないけどな、と思いながら本を手にした。意外にも、この本はバッタを専門とする昆虫学者がバッタ被害を食い止めるため、サハラ砂漠で悪戦苦闘するノンフィクションであった。この著者は当時、博士号を取得したばかりの若手研究者であり、どうやって論文にまとめようか、どうやって次の研究資金やポジションを獲得しようかと思案しながら一途に研究を続ける様が描かれていた。その姿に強く共感した一冊である。コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース238号(2022年5月)

　本書は、著名な経営学者であるP.F.ドラッカーにより書かれた成果をあげるための姿勢と、行動が示された箴言集である。本書では、5つの習慣（時間をマネジメントする、貢献に焦点を合わせる、強みを生かす、重要なことに集中する、効果的な意思決定を行う）を身に付けることの必要性が記されている。主に、経営者、起業家、組織のリーダーなどにむけた書籍であり、将来様々な分野で先導者になることが期待される皆さんにとって、価値のある1冊である。また、各人が取組んでいる身近な活動（就職活動、研究活動、部活、サークルなど）において、効果的に成果をあげるための参考となる観点が示されている。私自身にとっても、大学の教育・研究、さらに趣味などにおいて、大変役に立つ指針となっている。是非一読されたい。コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース237号(2022年4月)