ルソーの「エミール」は教育論の傑作である。「人間の自然性」という概念を持ち込み、物語を「子どもを育てる」過程をとおして展開する。人間の自然性とは、人間本来のあり方、あるいは人間の本質とする。また教育とは、人間に本来のあり方を身に着けさせ、人間としてふさわしい生き方ができるように導くと説く。「教育」 は、ラテン語の「引き出す」、あるいは「導き出す」という語源である。つまり人間として本来誰にもそなわっているもの、そしてそれを引き出すのが教育というわけである。
　この本は、「子どもはいかにして大人になるか？」、というテーマを内在している。子どもの発達上の限界をよく考え、子どもの能力に応じて、それにふさわしい教育をすべきだというテーゼを持ち込んだ。現代社会にふさわしい教育の本と考える。
コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース208号(2018年3月)

　科学の成熟が進む現在、他人の後追いではない独自性の高い最先端研究は難しくなっていると感じたことはありませんか。限られた過去を題材にする歴史小説家は、なおさら独自性が発揮しにくい時代になっていると思っていました。
　宮城谷先生は、歴史小説として取り上げられる機会が少なかった中国の春秋・戦国時代を中心に、新たな世界観を確立されました。「史記」全文を筆写するなど、原文資料の本質を自分で読み解く姿勢に支えられ、原文資料には描かれていない人間ドラマを生み出す創造力が卓越しています。多くの作品を通して、科学者の独自性について、改めて考えさせられました。その中で、管鮑の交わりで有名な「管仲」は入りやすい作品だと思います。
コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース207号(2017年12月)

　ものを書くことは、大変です。
　実験レポート、卒論、修論、博士論文はもとより、就職した後も、提案書、計画書、報告書等、学生の皆さんの将来はものを書く機会にあふれています。我々大学教員も、ものを書く機会だらけです。しかし、ものを書くこと、もう少し広い意味で捉えれば、人に何かを伝えることは自分の世界を広げることにもつながります。
　私は学生時代に本書に出会い、考えることと書くことについて、才能の有無ではなく技術として磨くべきものとの認識を持ちました。もちろん、スポーツの教本を読んだだけではオリンピックに出られないように、本書を読んだだけでは技術は磨かれません。幸いなことに、皆さんにはレポートや卒論・修論等、貴重な実践の機会があります。決まった書式を学ぶだけでなく、なぜその書式になっているかを考えるのにも役立つのではと思います。
コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース206号(2017年10月)

　北欧の美しい国、スウェーデン。私にとって憧れの国であるが、何故か縁が無く未だ訪れていない。本書はスウェーデンを舞台とした作家スティーグ・ラーソンによるミステリー小説で、スウェーデンの美しい情景を描きながら国内の社会問題に焦点を当て、生々しい犯罪とバイオレンスを含む3部作で、実に読み応えがある。当初、全５部が予定されていたが、第３部後に作家が亡くなり、第４部以降は他の作家により出版されている。作家が亡くなったことのショックが大きく、まだ第４部以降は読んでいない。
　日本やアメリカの小説は数多く読んだが、スウェーデンの小説にこれほど魅せられるとは私自身も驚いている。是非、社会勉強も兼ねて読んでいただきたい。
コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース205号(2017年9月)

　本書では，哲学の意味を「自分の生きている時代を捉えるために現在へと至る歴史を問い直し，そこからどのような未来が到来するかを展望する」としている。そこで、IT革命やバイオテクノロジーの社会への影響からはじまり、グローバリゼーションが及ぼす社会変革、そして自然科学と宗教の関係やそれらの社会への影響、最終的には人間中心主義と環境保護（ディープエコロジー）の話題へと議論が展開されている。IT革命ではシノプティコンモデル（私たちは「監視される者」であると同時に「見学する者」である）が紹介される等、多面的見方から真理をついている内容が多々あり、これからの社会の在り方を考えるきっかけとなり得るお勧めの書である。
コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース204号(2017年7月)

　数学の中でも特に方程式の歴史を天才数学者の生涯と思考の原点に注目しながら解説を行った書籍です。著者はシカゴ大学滞在中にレーゲンシュタイン図書館に通い、様々な数学者の原著をたどりながらこの本を執筆しています。そのため、数学者の思考の描写が生き生きと描かれ、所々に記述された過去の数学問題とその解法を読むことで虚数、加法定理や方程式の解の成り立ちを理解できます。授業や研究で使っている数学手法が、どのように成り立ってきたのか、その歴史を学ぶ意味でもお勧めです。
コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース203号(2017年6月)

　ノーベル物理学賞受賞者であるファインマンは幼い頃から知的好奇心が旺盛で、数多くのユーモラスな逸話を残しています。彼のとどまることのない探求心とそれが故に引き起こされた出来事の数々を楽しみながら読んだ記憶があり、学生の皆さんにも楽しんで読んでもらえると思います。
　本書には、これまた有名な物理の教科書である『ファインマン物理学』のような物理学自体の難しい話題はほとんど出てきません。彼の残したエピソードを通じて、未知への純粋な興味や、それを追い求めることの喜び、科学者としての本質的な楽しさを伝えてくれるものとなっています。
　これから理工学部で研究者や技術者を目指す皆さんに是非とも一度は手にとってもらいたい一冊です。
コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース202号(2017年5月)