古代中国の思想家孔子とその弟子たちの言行を集録したものです。人はどのようであるべきかが具体的事例を含んだ小話で示されています。それら小話は程よい具合で抽象的な内容となっており、読み手が「これはどういうことを言っているのだろう」と考えながら読むことができます。
　変化の激しく、何かとドタバタしている現代を生きていると、目の前のことにばかり気を取られ、自分がどういう人間になりたいのかといった理想を忘れがちです。そのときにこの本を読むと、人間として守るべきまた行うべきことが明確になっていき、自分の理想を再確認することができます。
コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース200号(2017年3月)

　私の学生時代は、飛行機内で喫煙ができました(私は吸いません)。また、インターネットが無い時ですから、
e-チケットではなく小切手のような券を使用して飛行機に搭乗していました。そんな時代に留学を疑似体験できるものとして先生から紹介していただいた本です。
　本書は、世界的に有名な研究室を新進気鋭の記者が取材したもので、研究者の生活が鮮明に描かれています。研究者たちの写真も出ており、「こんな人が実験しているのかぁ」と興奮しました。本書に出てくるポスドク(博士研究員)の多くは、現在では有名な研究者になっています。自分に気合を入れる時、今でも読み返す一冊です。時は経っても、本質的に変わらないものがたくさんあることにも気付かせてくれます。

コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース199号(2016年12月)

　脳がどうしていまある形になったかを理解するためには進化という物差しなしでは語れない。
そこで本書は生物が辿ってきた道筋とともにわかりやすく脊椎動物の脳の進化と多様性について解説している。
前半は脊椎動物の脳の起源に至る動物の進化の話である。読み進めていくと作者の知識の豊富さに驚かされる。脳の形はその動物の習性や生活様式などを反映している。逆に脳を見ればある程度その生物の特徴を推測できる。化石からでも。10mを超える翼竜がどうして脊椎動物のなかで初めて空を飛べたのか、そしてなぜ滅びたのかを比較形態学的視点から考察を述べている。他にも興味深いコラムが随所に散りばめられており、本書を楽しく読み進められる要因となっている。どうして三畳紀に生物の大量絶滅が起こったのか？なぜヒトは蛇を恐れるのか、共感覚はなぜあるのか？トカゲの尾の再生では神経細胞は実は再生しないこと、電気で交信する魚モルミルスの特異な脳構造の話などは特に興味深く、生命の持つポテンシャルに深い感銘を受ける。
　本書から得られる知識は、脳を研究している人だけでなく、再生医療、恐竜ファン、人工知能を学ぶ異分野の方にもきっとインスピレーションを与えられる内容だと思う。私たちと異なる脳を持つ生物はきっと私たちが感じることのできない感覚をもつ。そのような生物はきっと世界を違った捉え方で見ているはずである。「脳の出現によって、世界のあり方に著しい多様性が生まれたと言えるかもしれません。さまざまな世界が、脳によって創造されたのです。」という筆者の言葉が印象的である。

コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース198号(2016年11月)
※理工学メディアセンターニュース198号の文章は掲載スペースの関係上、堀田耕司先生ご自身による要約版となっています。

　ロボットに視覚を実現しようとすると画像処理工学、信号処理工学などが重要なツールとなるが、本書は心理学的な視点を与えてくれる。
　著者は視覚と脳の研究で有名なDavid Marrの直弟子である。人の脳の能力指数のIQやRI(Rational Intelligence)は以前から知られているが、心理学の分野ではEQ(Emotional Intelligence Quotient)の重要性が注目されている。
　本書ではVI(Visual Intelligence)について紹介している。VIは、生得的に備わっているわけでなく成長の過程で発達する。その結果、取得したVIにより人はどのようにものを見て解釈するのか解説しており、いろいろな錯視現象を解釈するのに面白そうである。

コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース197号(2016年10月)

　「青年と哲人の対話」という物語形式で心理学者アルフレッド・アドラーの思想を正面から伝えようと試みている本書ですが、トラウマの存在を徹底的に否定したり、「嫌われたくないから○○症を作り出している」などかなり厳しい言及もあります。どこまで受け入れられるかは人それぞれといったところかもしれません。個人的には、過酷な状況に置かれた時の人間心理や一流スポーツ選手のメンタルコントロール、禅の思想などとも通じるところがあると感じました。
　日常生活になんとなく息苦しさを感じている人はもちろん、自己啓発本(なんか)を必要としていないと自負している人にも手にとってもらいたい本です。

コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース196号(2016年9月)

　空白の多い紙面、軽妙な語り口、本書は軽いビジネス書と位置づけられるかもしれない。著者はSFCの教育経済学者。「教育にエビデンスを。」というのがその主張である。
　主観的な経験で語られることの多い教育という分野において、統計的に意味のあるデータに基づく議論の重要性を明快に示す。一方で、誰でも質の劣る教育は受けたく(受けさせたく)ないわけで、「実験」の難しさと、実現する工夫は目を見張るものがある。
　少人数教育はあまり効率の良い投資ではないという私には意外な結果も多かった。日頃データを扱いなれている、教育を受ける側の諸君に批判的に読んでほしい。
コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース195号(2016年7月)

　近年、人と人工知能(AI)の関係について、技術、雇用、社会、法律、政策、倫理など、様々な観点から議論されています。著者は、2011年にRace Against the Machine(2013年、邦訳「機械との競争」)を出版し、それ以降、この議論が活発になってきました。
　本書は、これに続く書籍ですが、AIによる雇用の変化予測については、様々な経済データを用いて実証的に考察されており、考えさせられます。スイスでは、多くの職業がAIに代替されていく事を懸念し、2016年6月、最低限所得補償制度のひとつであるベーシックインカム導入の是非に関する国民投票が実施される予定です。人とAIの関係、皆で考える時代が到来したということでしょう。

コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース194号(2016年6月)

　著者は現役の確率論/統計学研究者ですが、本書以外に確率論の教科書も書いており、過去にはそれを研究室の学部4年生の輪講のテキストに用いたことがあります。そこでは、なぜこういう考え方をするのかといったことが丁寧に述べてあり、数学の専門書らしからぬ読みやすさで感心した記憶が残っています。
　本書は一般向けの読み物で、日常生活の中のいろいろな話題を通して確率・統計の考え方が説明されています。数式はほとんど用いられておらず数学の好き嫌いに関わらず楽しみながら読むことができ、そこで得られる不確実性、ランダム性に対する考え方は今後の人生にもきっと役に立つと思います。

コラム掲載号：理工学メディアセンターニュース193号(2016年4月)