1)自己紹介 | |
一人でも多くの塾生を世界に送り出したいと思い慶應義塾の教員になりました。これまでの教員生活27年間、教育と研究と国際活動を徹底的に楽しんできました。和菓子が大好きです。 |
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2)専門・研究分野 | |
量子コンピュータです。 | |
3)どんな学生でしたか | |
大学では理工学部で学びながら、体育会庭球部員として多くの時間をまむし谷(日吉)テニスコートで過ごしました。4年生からは研究の面白さにはまり、大学院では米国カリフォルニア大学バークレー校に進学して修士号と博士号を取得しました。多くの仲間と力を合わせることが大好きでした。 |
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4)最近新しく始めたことはありますか | |
2021年5月に塾長という新しい仕事を始めました。初めて三田キャンパスに通っています。 | |
5)塾生に一言 | |
慶應義塾の目的である「全社会の先導者」を目指すためには、学問と仲間が大切です。慶應義塾で生涯の友に出会い、一緒にこれからの時代を創っていってください。 |
みなさん、必ず読んでください、必ずです!封建制度が残る明治初期の日本において、生まれや育ちは関係ない!人間としての尊厳と独立が何よりも大切と説き、学問を修め、他人の尊厳を重んじることで、良い個人に基づき、良い家族、良い地域、良い国が成長するという、当たり前のようで今でもできていないことを教えてくれる、君たちの人生を変える本です。先行きが不透明な現代こそ、個人の独立に基づくより良い世界の構築が不可欠です。そのために必要なのが学問であり、世の中を良くしようとする意志と実行力です。民主主義の原点を示した書とも言えます。現代語訳にはいろいろなバージョンがあるのですが、とりあえず一番読み易いのをあげました。現代語訳と並べて福澤諭吉の原著『学問のすゝめ (岩波文庫) 』を読むと迫力が伝わってきます。なぜ今、『学問のすゝめ』なのか?については、この本に続いて、もう一冊の推薦書『21 Lessons; 21世紀の人類のための21の思考』を読むとわかると思います。君たちに本気で正しい社会を作っていってもらいたいということです。
女子大生の夏子は容姿端麗で自由奔放。裕福な家庭で何一つ不自由なく大事に育てられたお嬢さんです。その夏子に男たちが群がります。かっこいい男、楽しい男、感じの良い男と世間的には申し分ない男ばかり。でも、夏子から見ると、結局のところ良い職について、良い家庭を築くという「型通りの人生の目標」しかもっていない男ばかりで物足りない。そこで、夏子は思いつきで、函館の修道院入りを決めてしまいます。家族は大反対の大騒ぎですが、自由奔放でありながら頑固な夏子は聞く耳を持たずに旅に出ます。ところが函館へ向かう車中、情熱的な輝きを瞳に宿す一人の青年と巡り会って…。
三島由紀夫と聞くと、『仮面の告白』や『金閣寺』が代表作の、硬派の本格小説家という印象でしょうが、彼自身が裕福な家庭で育ち、学習院高等科を経て東大法科卒の青年でした。実に軽快で読み易い文体の、時代を超えたラブコメディーです。
昨年夏、アフガニスタンから米軍が撤退し、タリバン政権が復活しました。このときに最初に頭に浮かんだのがこの小説です。アフガニスタンの近代史は壮絶です。その複雑な実態を正確に把握することは到底無理ですが、この小説の主人公である一人のアフガニスタン人の人生を通してその一端に触れることはできます。小説としての完成度が抜群で、読者としての自分が主人公の人生に溶け込んでいきます。少年時代を過ごしたアフガン首都カブールの日常と、それに続くソ連の侵攻とアメリカへの亡命、さらには2000年ごろの第一期タリバン政権下のアフガニスタンに主人公がわざわざ戻る様子をとおして、アフガニスタンという遠い国が身近になり、人間の素晴らしさが万国共通であることを実感します。私は英語版の原書”The Kite Runner” を読みましたが、早川書房の和訳は定評があるのでお楽しみを。同じ著者による続編『千の輝く太陽』もお薦めです。
日本を代表する近代歴史学者が栄光学園で高校生向けに行った授業の記録です。私たちは何かの選択をするときに必ず自分の経験や人の意見を参考にします。でも自分の経験や知り合いの数は限られます。そこで歴史学者の出番となります。人類の経験を体系的にまとめて私たちの次の判断の手助けをしてくれます。本書の終わりに著者は次のように書いています。「類推され想起され対比される歴史的な事例が、若い人々の頭や心にどれだけ豊かに蓄積されファイリングされているかどうかが決定的に大事なことなのだと私は思います。」
明治以来、日本は四つの対外戦争を経験しました。政治家、官僚、軍人、そして一般市民はそれぞれに国の行く末を考え、参戦やむなしの判断を下してきました。その論理を支えたものは何だったかを議論するのが本書です。続編として『戦争まで:歴史を決めた交渉と日本の失敗』加藤陽子(朝日出版社)を併せて読むとさらに全体像がつかめます。
第二次大戦の日本軍の敗因(裏を返せば米国軍の勝因)については『失敗の本質:日本軍の組織論的研究』戸部良一/寺本義也/鎌田伸一/杉之尾孝生/村井友秀/野中郁次郎(中公文庫)が名著であり、これは戦争の勝ち方のみならず、組織における成功の仕方という意味でとても参考になる本です。
慶應義塾出身の小説家も紹介しなければ!第66回毎日出版文化賞、第16回司馬遼太郎賞、第23回紫式部文学賞に輝いた素晴らしい小説。以下、毎日出版文化賞の選評を引用します。
『現代史の深部に挑んだ力作 松浦寿輝氏
1980年、日本の中学を卒業してアメリカの小さな町の高校に留学した少女が、日本を「かつての敵国」と呼ぶ人々に囲まれつつ、「天皇の戦争責任」という厄介なテーマを論じることを強いられる。赤坂真理「東京プリズン」は、この小さな挿話から出発し、わが国の現代史の深部にまだなまなましく疼いている外傷体験に真っ向から立ち向かった、気宇壮大な力作である。
孤立無援の少女が途方に暮れて故国に国際電話を掛けると、そこはいきなり2009年の日本で、電話に出るのはかつての母親の年齢になった自分自身なのだ。戦争責任の問題を曖昧にしたまま、バブルとその崩壊を経て、やがては大震災も起こる平成日本の現在までもが、この作品に取り込まれ、分厚い虚構の時空を形成している。
文学は、しなやかで強靱な想像力によって、政治学や社会学の論文とはまったく違う形で「国家」を論じ、「歴史」を問題化しうるのだ。小説という形式が内にはらむ豊かな可能性をまざまざと示してくれた、近来稀な傑作長篇と思う。』
米TIME誌が発表したYoung Adult部門の名著中の名著。対象読書年齢14-16歳ということなので、是非、英語の原著で読んでみてください。映画化もされていますが、とにかく原著がお薦めです。
ガンとの闘病を続けるティーンエージャーたちの恋愛と友情と家族愛の小説です。重いテーマなのに明るく真剣に、でも冷静に人生を生き抜くストーリー展開に引き込まれ、笑いと涙の重ね合わせが読み終わるまで続きます。
私が最も尊敬するビジネスマンの自伝です。私たちの生活スタイルを変えてくれたクロネコヤマトの宅急便の生みの親。テキトーな包装でも日本中どこでも丁寧に翌日配達、冷蔵も冷凍も扱いますよというのはビジネス分野での革命中の革命でした。現代ではGoogle, Apple, Amazonといった米国企業がもてはやされますが、日本に住む外国の方々は宅急便というシステムに驚愕しています。コロナ禍において宅急便がなかったらどうなっていたことでしょう。佐川急便も日本郵政もヤマト運輸を追随しただけです。筋の通らないことは許さないと官僚との真っ向勝負を挑み続けた反面、私財を投じて財団を設立して、福祉の現場で「経営改革」に取り組んだ素晴らしい方です。
ところで、ネットで調べるとこの本は絶版のようです。さらにネットで調べると『小倉昌男 祈りと経営 : ヤマト「宅急便の父」が闘っていたもの』著者:森健(小学館)が似た内容で、絶版ではなく、評価が高いようです。ちょうど良い機会なので私も読んでみようと思います。
From Beirut To Jerusalem. 2nd ed 著者:Friedman, Thomas L.
この本、日本語版がないのがとても残念です。30年前の大学院生時代に、中東の緊張を歴史から紐解くこの本に出会って衝撃を受けました。著者はその時点でピューリッツァー賞を2回受賞したジャーナリストです。1回はベイルート、もう1回はエルサレムからの報道による受賞で、その集大成としての本書は1989年全米図書賞(ノンフィクション部門)に選ばれました。アラブ・イスラエル戦争とそれに伴う大量のパレスチナ難民の発生やイスラエルのレバノン侵攻などの背景や実態が克明に記されています。中東の緊張は今でも続いていますが、その根底を知ることの大切さを実感させてくれる本です。レバノンといえば日産カルロス・ゴーンの逃亡先でもありますよね。
中東の緊張は今でも続いていますが、その舞台はサイバー空間に移りつつあります。皆さんのインターネット活動はどこかで見張られているうえに、これからの戦争は完全にサイバー空間に移行します。その最先端を走るのがイスラエルです。昨年の英フィナンシャルタイムズ誌の年間最優秀ビジネス本に選ばれた『This Is How They Tell Me the World Ends: The Cyberweapons Arms Race』 Nicole Perlroth (Bloomsbury)ではサイバー戦争の最先端が生々しく描かれています。これもまだ日本語に訳されていません...。
ベストセラー『サピエンス全史』で人類の歴史、『ホモ・デウス』で人類の未来を描いた世界トップの歴史家が、本著では人類の現在を問います。幻滅、雇用、自由、平等、コミュニティ、文明、ナショナリズム、宗教、移民、テロ、戦争、謙虚さ、神、世俗主義、無知、正義、ポスト・トゥルース、SF、教育、意味、瞑想という21のレッスンから構成され、テクノロジーの脅威と対処を読者と一緒に考察するスタイルの必読の書です。2018年に英語の原著が発売されたのですが、その時点では少し先のこととして描かれたAIやバイオテクノロジーの多くが4年後の現在に現実のものとなっています。イスラエル在住でありながら世界の隅々で起こっていることに目を配るグローバルな視点と、文化芸術や大衆芸能も含めた底なしの教養に圧倒されます。これからのテクノロジーや医療の発展には総合知(歴史学、哲学、社会学、人文科学等)の並走が不可欠であることが実感できます。この本を読んで皆さんも是非、学問に励んでください。自分がこれから過ごす社会を正しい方向に持っていってください。
破茶滅茶なコメディーです。舞台はスウェーデンで、老人ホームから逃げだした老人が、その後を追う連中を退治していきます。老人の若いころの回想はフォレスト・ガンプを彷彿するもので、この老人が意図することなしに様々な歴史を変えてきたというものです。そこに注目する読者もいるようですが、私はただ単にコメディーとして老人の逃避行を楽しみました。時間潰しに最高の本です。
1)自己紹介 | |
どうも。津田眞弓です。江戸を中心に日本古典文学を教えています。(就任時、日吉キャンパスで日本関連の学問を専任で教える唯一のポジションと言われました…) |
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2)専門・研究分野 | |
江戸文学。特に先祖が(年配から子供まで、男も女も関係なく)見ていたに違いない「草双紙」を中心に研究しています。 | |
3)どんな学生でしたか | |
ちょっと斜に構えてサークルに入らず、某映画会社の演劇養成所に通って、自分が一番不得意な、人の前に立って話すということができるように、苦しいチャレンジをしていました。そこでの学びが、今、ものすごく役にたっていますね。 バイトは、祖母の乾物屋さん。昆布、鰹節、干し椎茸、豆類など、和食に必要な伝統的食材の調理法を、一通り説明できます(調理できるかは別…)。 |
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4)最近新しく始めたことはありますか | |
家を建てる計画。(正解がなくて魔宮のよう…) | |
5)塾生に一言 | |
今はNYのコーチに、発声を習うことも簡単な時代。好きなこと、興味のあることにアンテナを張って、今、可能な限りやってみてください。実体験したいことを貯めておく。きっと後でものすごい学びにつながると思います。 |
塾生新聞にて、先生のインタビュー記事が掲載されています。ぜひご覧ください。
https://www.jukushin.com/archives/49720
幕末以降来日した外国人が残した言説の優秀なガイド。江戸時代、封建制、飢饉、感染症、近代的な医療も電気もない世界で、日本人がどう生きていたか。私はずっとお気の毒って思っていたのですが、そうじゃないみたい。明るく、朗らかで、幸福感に満ちていたそう!どうしたら、そんな心豊かに生きられるのかしら。
私が研究している江戸時代の絵本(草双紙)を使った事典。対象資料は1775年~1806年の30年間、江戸っ子意識が生まれたころの江戸を描く挿画。様々な階級、職種の人々。季節の行事、名所、儀礼、娯楽。そうそう、吉原に行く際の道中の光景やその世界にもずいぶん紙幅を使っています。こういう本で、江戸を知ってほしいです。
奥の細道、自筆草稿本と歴史的に有名な江戸時代に出版された本。セットでどうぞ。みんなが古文の時間に教科書で読んでいた活字の本と、もとの文が、どれだけ違うか、ぜひパラパラめくって見てほしいです。章段分けなんてしてないし…。大学の勉強では、活字で見ても本当に読んだことにならないっていうわけです。
歌舞伎評論の大家、戸板康二。推理小説でも名高い彼が書いた、母校の戦争前の塾生の群像。国家の危機に揺れる先輩達や戦前の三田の様子。学徒出陣のこと、大学生のうちに一度は考えて欲しいです。それと、慶應って福澤諭吉を筆頭に、脈々と、近代の歌舞伎の存続と発展に大きく貢献してきた歴史があるんです。御存じでした?
万葉集の歌々は、力強く、慕わしい。これは事実。けれど、万葉集が古典として高い評価を受けるのは、大日本帝国の形成や戦争へ突入していく中で〈作られた〉こと。古典文学を勉強する時、古典文法の暗記なんかより、その前に知るべきことがあるということを教えてくれる一冊。古代の文学は今の日本も揺さぶっています。
1)自己紹介 | |
本塾理工学部数理科学科の出身です。現在は、医学部生に数学(線形代数学、微積分学、統計学)を教えています。 | |
2)専門・研究分野 | |
確率論の研究をしています。 | |
3)どんな学生でしたか | |
友人数人とプライベートで数学の本を読むセミナーをよくやっていました。 | |
4)最近新しく始めたことはありますか | |
最近というわけでもありませんが、散歩をするのが好きです。 | |
5)塾生に一言 | |
色々な学部の人、また色々な大学の人と交流を深めることをおすすめします。 |
本書のまえがきに「このテキストの題名は、『微積分法の物語』としてもよかった」と書かれているように、本書は微積分法を歴史の流れに沿って丁寧に解説した数学の物語です。
微積分法が自然科学の諸分野や工学、経済学に広く応用されていることを多くの例を通して学ぶことができます。
本書には125 題の確率に関する問題が書かれています。日常的な事に関係した問題が多く、楽しく読み進めるうちに確率的思考法が身につきます。過去に数学者たちが取り組んだ問題も書かれており確率論の歴史に触れることもできます。
数学が社会の様々なところに関わっていることを本書は教えてくれます。本書を読んで数学を身近に感じて頂ければ幸いです。
1)自己紹介 | |
法学部で主にスペイン語の授業を担当しています。他に日吉キャンパスでは人文科学特論、三田キャンパスでは人文科学研究会も受け持っています。 | |
2)専門・研究分野 | |
ウルグアイとアルゼンチンを中心とした、20世紀以降のラテンアメリカ文学です。特に、「誰とも似ていない」と称されたウルグアイのピアニスト兼作家、フェリスベルト・エルナンデスについて研究を進めてきました。作品の翻訳紹介も手がけています。 | |
3)どんな学生でしたか | |
「空回り」と呼ぶほかない学生生活でした。いわゆる研究者を目指してはいなかったものの大学で何かを学び取りたかったのは確かで、力の限り外国語に手を出し、文学を学びたいという意識はありつつも色々な分野の本を漁っていました。とはいえ一人で乱読を続けても特定の作品や作家、あるいはテーマになかなか関心が収斂していかず、また読書会など開いても長続きしないまま、就活も惨憺たる状態で途方に暮れていました。 そんな学部4年生の日々、ふとしたきっかけでセルバンテスの『ドン・キホーテ』を手に取りました。気が付けば夏休みを丸々費やし、読了後、頭のなかは四六時中『ドン・キホーテ』のことばかりとなりました。意を決して学部5年目、それまで縁のなかったスペイン語を学びはじめつつ『ドン・キホーテ』の原書をわけもわからず頭に詰め込み、どういうわけか卒論に漕ぎ着けました。 そんな私がウルグアイ文学に至った経緯については、また別のお話となります。 |
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4)最近新しく始めたことはありますか | |
コロナ禍で外出もままならない日々が続いていることもあり、新しいチャレンジはなかなかできていません。やってみたいなと思うのはカポエイラです。 | |
5)塾生に一言 | |
実に平凡な話ながら、読書には逆説的なところがあります。「本ばかり読んで」と何かにつけて揶揄されるように、読書という営みは現実逃避と同一視されがちです。なるほど読むためには、眼前の現実から身を剥がし、書物の世界によくよく入り込まなければならない。目の前に繰り広げられる事象を見失う危険はあります。しかしまさに目の前を「見ない」がゆえに、あなたが即時的な現実にすくみ上がったまま思考停止することを防ぎ、遠くの、あるいは近くの細部や大局を鮮明に浮かび上がらせてくれるものでもあります。 盲目にも視野狭窄にも陥らず、そのあわいを行く。そんな絶妙なバランス感覚を初めから備えている人は、幸福な少数者です。皆さんの圧倒的多数は、やはり闇雲に読んでみるほかないでしょう。大学は試行錯誤の場です。果敢に挑んだ結果バランス感覚を失った人たちと、キャンパスで言葉を交わせるのを楽しみにしています。 |
※文庫本版もあります(請求記号:L@953@Ce2@1-1 / L@953@Ce2@1-2)
20世紀最高の文学作品、少なくともその一つが、この呪詛と罵倒と弱者への無力な慈愛に満ちた小説だとしたら。その作者が、唾棄すべき激越な反ユダヤ主義者としたら。大学1年生のときセリーヌに出会ったことが、文学というものについて考え続ける遠い原動力になっているような気がします。
言葉で世界と相対するとはいかなることなのか。近代小説という形式を知らずして切り拓いてしまった名ばかり有名なこの古典、実は21世紀の読者をも困惑させずにおかない怪作です。書物を読み耽り狂気にはまり込んだ男の冒険を読み耽るうち、人を動かす書物なるもの、そして書物なるものに突き動かされる人間なるものの不思議さが頭から離れなくなりました。
20世紀中頃、世界中の鋭敏な読者がこぞってラテンアメリカ文学を貪り読む現象が起こりました。今なお私たちを驚かせ続けるこの宝の山、知らずに四年間を過ごすのはあまりに惜しい。推したい作品は山とあれど、まずはすでに古典となった王道中の王道を。コロンビアが産んだノーベル賞作家の破天荒な語りの魅力に、何はともあれ一旦身を委ねてみましょう。
のちにアメリカと名付けられる地でスペイン人(をはじめヨーロッパ人)が行った蛮行は、世界史の忌まわしい裏面としてあまりに有名です。しかしそれを押しとどめようとしたのも、ほかならぬスペイン人でした。ドミニコ会士ラス・カサスによる簡潔ゆえに慄然とする告発はもちろん、時代ゆえの限界も踏まえつつそこから立ち上がる普遍への意志に、今のうちに触れてほしいと思います。
大学生は、膨大な言葉を取り込みながら自分でも言葉を発信する生き物です。その言葉の仕組みを知ることは、己の武器の精度を上げることにほかなりません。本書は、私たちが知らず知らずのうちに絡め取られ、また自分自身駆使してもいる「言葉のあや」の機能を論じています。読んだ前と後では、テクストの解像度が一段と違っているはず。
大学生のうちに、たくさん詩を読んでほしいなと思います。滋味豊かな古典の詩歌もよし、異邦の言語で書かれた詩の原文や翻訳もよし。その上で願わくば、あなたと同じ今を生きる人が書いた詩作品に触れてほしい。思わず口をつぐむような境涯を鮮烈なことばの力で読者に突きつけるこの歌集が、その端緒となれば幸いです。
教員のオススメ本 2022日時:2022年3月28日~5月31日 先生方が学生のみなさんにおススメする本の紹介と展示をしています。 伊藤公平先生(塾長) |