論文を執筆する際は、著作権の知識が不可欠です。ここでは、引用に関することや、自身が執筆した論文の著作権の扱いなど、研究活動や論文執筆に関する著作権について解説します。
Q. 著作物の引用はできますか?どのような要件を満たせば、適法な引用と認められるのでしょうか?
A. 公表された著作物は、引用して利用することができます。
引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければなりません(著作権法第32条)。また48条では、その出所を明示するように求められています。
引用が著作権者の権利を侵害しないものと認められるためには、以下の3点の要件をクリアすることが必要です。
①必然性:それを引用する十分な理由・必然性があること。
②主従関係:引用する側は、引用される側よりも、質的にも量的にも、主の関係であること。
引用される側の記述の方が引用側よりも多い、とならないように引用しましょう。
③明瞭区分性:該当部分を「 」、“”といった引用符で囲んだり、引用部分の前後を空けて、インデントしましょう。
文章や論文全体を要約した場合には、元の文章の意味を変えてしまわないようにに注意しましょう。
読者が引用された情報にあたれるように、引用元の出版情報は明記しましょう。
Q. 引用についてさらに詳しく知りたいときは?
A. メディアセンターや関連機関では、引用について下記の授業やオリエンテーション、ガイド類で説明しています。
Q. 論文で画像を引用したいのですが、引用すればインターネット上の画像を勝手に使ってもよいのでしょうか。
A. 「引用」の要件に該当するか今一度ご確認を。著作権権利処理済みの画像などの活用もご検討下さい。
著作権法32条1項を根拠として引用が正当なものとされるためには、「Q. 著作物の引用はできますか?」で説明したとおり、①必然性、②主従関係、③明瞭区分性があること、といった要件をクリアする必要があります。ご自分のケースが著作権法32条1項にあたるものであるか確信が得られないケースは、著作権者の許諾を得る必要があります。
また、インターネット上にある画像は、出典の安定性(URLが頻繁に変わる可能性)や、その画像の利用が孫引きに該当してしまう可能性など、様々な問題があるため、利用は推奨しません。
なお、著作権のあるものは、権利者の許諾を得て使用するのが原則ですが、著作権の保護期間を経過したものや著作権権利処理が済んでいるものなど、著作権者の許諾を個別に得なくても使用できる画像もあります。
慶應義塾では、著作権権利処理済みの画像として、教育用途に利用可能な画像データベース、Britannica Image Questを契約しています。このデータベースに収録された画像は、著作権者に個別の許可を得ることなく使用することができます。
また、たとえばクリエイティブコモンズ表示のある著作物は、著作権者が著作物の利用範囲を明記している場合は、マークの指示に従って利用することができます。
著作権保護期間満了の著作物なども、著作権者に連絡せず利用できる著作物です。一例として、国立国会図書館デジタルコレクションの「インターネット公開(保護期間満了)」があります。
さらに、著作権だけでなく、人物が映り込んだ画像などを利用する際は、個人情報やプライバシー等に配慮する必要もあります。
Q. 他者の著作物に掲載されている図表を引用して、自分の論文にそのまま掲載することはできますか。また、他者の著作物に掲載されている図表を改変して自分の論文で使う場合は、著作権者の許諾が必要でしょうか。
A. 「引用」の範囲内であれば、一般的には許諾なしに利用することができると考えられますが、引用元の方針によっては許諾を求められるケースもあります。
一般的には「引用」の範囲内であれば、図の脚注に出典元を明記するだけで、図表を自分の論文に掲載することができると考えられます。
一方で、著作権者が学会や出版社となっている場合、図表を他の著作物に利用する場合は許諾を必要とするポリシーやガイドラインを定めている場合もありますので、引用元の出版社サイト等でポリシーやガイドラインを確認しましょう。たとえば、Springer Nature社のポリシーでは、当社の出版する雑誌に掲載された図表等を再利用する際は許諾が必要だと書いてあります。
また、引用する図表の数は必要最小限に抑えましょう。学会や出版社によっては、断りなく引用できる図表の数を制限しており、それを超える場合は許諾が必要となる場合があります。一例として、情報処理学会のWebサイトには「具体的には図を1、2点程度であれば、一般に引用の範囲と見なされるようです。」という記述があります。
他の著作物に掲載されている図表に何らかの形で手を加えて自分の論文で使う場合も、出版社等がポリシーやガイドラインを定めている場合は、その方針に従ってください。出版社のポリシーによっては、改変利用が認められていないケースもあります。
引用の範囲内で利用し、ポリシー上も許諾が不要なケースに該当する場合であっても、図表の脚注に[○○著「タイトル」○○出版、p.xx より引用し、一部改変]などのように、原図の出典元と「著者が手を加え作成した」旨を明記する必要があります。
いずれのケースでも、引用の範囲を超える場合は、著作権者に許諾を得なければなりません。
「引用」として認められるか、許諾が必要なのか、判断に迷うケースでは、著作権者に問い合わせるとよいでしょう。
Q. データベースから得られた統計データをテキストマイニング等のために自由に利用できますか。
A. 利用規約があれば、それに従いましょう。
著作権法では「情報の選択又は体系的な構成によつて創作性を有する」データベース自体を著作物として、著作権法の効力が及ぶところとしています(著作権法第12条の2)。
さらに、著作権法第30条の4(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)では、情報解析や電子計算機による情報処理の過程における利用などといった用途の場合は、その必要と認められる限度において、利用することができるとしています。テキストマイニングはこの用途に該当する可能性があります。ただし、利用には「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」という要件があるので、「著作権者の利益を不当に害する利用」に該当しないか確認する必要があります。
また、データベースによっては利用規約が定められており、テキストマイニングを目的とした利用を禁止していたり、許諾を必要とするケースもあります。一般公開されているデータベースであれば、利用規約をご自身で確認し、不明な場合はデータベース提供元に問い合わせるとよいでしょう。メディアセンターで契約しているデータベースであれば、まずはレファレンス担当までご相談ください。
Q. 自分が著作者である論文は、他の著作物に自由に転載したり翻訳したりすることはできますか。
A. 著作者=著作権者とは限りません。まずは論文投稿先の規定を確認しましょう。
論文の投稿先によっては、著作権(著作財産権)を投稿先の学会や出版社に譲渡することが投稿規定で定められている場合があります。
著作権を譲渡した場合であっても、一定の条件下であれば自著論文の複製や翻訳・翻案などを許可なく自由に行うことが可能である場合や、学会から許諾を得る必要がある場合など、雑誌や出版者ごとに著作権の扱い方は異なるため、雑誌の投稿規程や論文投稿時に提出したLicense Agreement 等を参照してください。
Q. 出版社や学会に著作権を譲渡している論文を書き直して博士論文を作成する場合、著作権者である出版社等の許諾は必要でしょうか。また、この博士論文を機関リポジトリ等に掲載し、インターネット上で公表してもよいでしょうか。
A. 出版社等との契約次第となります。論文を博士論文として流用する予定がある場合は、あらかじめ投稿先の規定を確認しておきましょう。
すでに学術雑誌に投稿済み、掲載済みであったり、図書として出版済みであるものを転載・流用して博士論文を作成してよいかどうかは、投稿先の出版社や学会の取り決め次第となります。
また、この博士論文をインターネットで公表できるかどうかについても、投稿先の出版社等との契約次第となります。
雑誌や出版社ごとに、著作権の扱い方は異なりますので、投稿規程・著作権規程や、著作権に関する許諾契約書、License Agreement の内容をよく確認し、理解しておく必要があります。
論文を博士論文として流用する予定がある場合は、のちにトラブルにならないように、以下のポイントについて、出版社のポリシーを投稿前に確認しておくことをお勧めします(投稿規程・著作権規程や許諾契約書、License Agreementに以下のポイントに該当する内容が明記されていない場合は、投稿する際などに、出版社に確認しておくとよいでしょう)。
一般的には、著作権は出版社に譲渡するが、博士論文としては使用可とするケースが多いようです。インターネット公表についても、一定の条件をクリアすれば可とするケースが比較的多いようです。